ドイツ発祥の省エネ住宅基準にパッシブハウスというものがあります。
2009年に日本にその考え方が入ってきて以来、パッシブハウスが日本でも
徐々に広まってきています。
パッシブハウスって、日本の省エネ住宅と何が違うのか?
どんな特徴があるのか。そのメリットやデメリットは?価格は?
そんな気になる情報を、パッシブハウスジャパン東海支部のエリアリーダーの私が解説します。
Contents
パッシブハウスとはそもそも何なの?
パッシブハウスを語る時、多くの人は、省エネ住宅の商品の事だと勘違いをしていますが、実はパッシブハウスというのはそういう名前の家の事であったり、そういう仕様があるわけではありません。ドイツパッシブハウス研究所のファイスト博士によって提唱された家の在り方の事です。
パッシブハウスは世界でも最も厳しい住宅のエネルギー排出基準の一つになりますが、なぜ、そこまで厳しい基準が定められたのでしょうか。
オイルショックや酸性雨、オゾンホールなどの問題が取り沙汰され、環境意識が高まってきた1980年代のドイツ。全館暖房の普及も相まって住宅一戸あたりに使うエネルギー量は、日本の倍近くにも達していました。
これからの子供たちや孫たちの為に、これ以上地球のエネルギーを使うわけにはいきません。持続可能な社会にするために、住宅一戸当たりが使っても良いエネルギー量はどれくらいになるのか、あるべき姿から逆算してみようというバックキャスティングの考え方により、パッシブハウスの基準は生み出されました。
その結果が、世間一般で言われている超高断熱のイメージであり、家一軒を徹底的に細部まで分解して計算する厳格なルールになったという事です。
つまり、世界中全ての家がパッシブハウスが提唱するエネルギー使用量以下で過ごせるようにならなければ、人類は依然滅亡への道をたどり続ける。という指標ともとらえることが出来ます。
パッシブハウスを仕様の事だと勘違いをしている人が沢山いますが、実はパッシブハウスというのは、地球と人類を守るための思想の事を言うのだと私は解釈してパッシブハウスジャパンの活動を行っております。
パッシブハウスのメリットは何?
そもそもドイツで言うパッシブハウスのメリットと、日本で言うパッシブハウスのメリットは、若干スタート地点が違います。
というのも、ドイツでは既に全館暖房が当たり前になっており、冬に家のどこにいても暖かい暮らしが出来るのは当然でした。しかし、その分使うエネルギー量も尋常ではないほどに多い為、ドイツにおいては、現状の生活レベルを維持しつつ、エネルギー使用量の削減を目指すというのが大切な事であり、エネルギー使用量の削減、ひいては光熱費の削減というのがパッシブハウスを建てる最大のメリットになります。
もちろん、その先には人類の持続可能な暮らしというものがあります。
では、日本においてパッシブハウスを建てるメリットはどこにあるのでしょうか。実は日本は既に暖房エネルギーの使用量に関して言えば先進国の中ではトップクラスに省エネと言える暮らしをしています。
その代わりと言っては何ですが、日本の家はとても寒いです。
普通の先進国であれば家の室温は15℃~20℃なのが標準的な環境です。
しかし日本の家は10℃しかありません。(北海道を除く)
その結果、何が起こるかというと、家の中で倒れる人が出てくる、ヒートショックという現象です。
交通事故死者をはるかに上回る人が、家庭の寒さが原因で亡くなっているのです。
ヒートショックだけが原因ではありませんが、日本の医療費は年々上昇を続けており、実にGDPの一割が医療費に掛かっているというのが現状です。
なので、日本におけるパッシブハウスを建てるメリットは、今と同じくらいのエネルギー使用量で、家の中で人が倒れない最低限の暮らしは勿論、夏も冬も不快な思いをすることなく過ごせるようになることにあります。
スタート地点は違えども、実はパッシブハウスを建てる事によって得られるメリットは、日本でもドイツでも同じ、健康的で快適な暮らしを、少ないエネルギー(光熱費)で実現出来る事にあります。
その、エネルギーの数値基準が、自分たちだけの事を考えたものなのか、人類全体の事を考えた物なのかというのが、パッシブハウスとその他の基準との大きな違いともいえると思います。
パッシブハウスのデメリットは?
パッシブハウスのデメリットをあえて挙げるとするのであれば、その恩恵を最も享受するのはあなた自身よりも、あなたからパッシブハウスを受け継いだ子供たちや孫たちである事。
自分の代だけの経済的最適を目指すのであれば、実はパッシブハウスよりももう少し低いレベルの性能の家を建てたほうが良いかもしれません。
いくら低燃費な車を買ったとしても、数万キロしか走らずに手放してしまうのであれば、最初に高かった分は元が取れません。
パッシブハウスは自分の代だけの事ではなく、もっと長いスパンで人類の最適を目指した家の基準です。だから、パッシブハウスは自分が一番得をしようと思って家を建てる人にとっては、デメリットの方が大きく感じられるかもしれません。
価格が高いことはパッシブハウスのデメリット?
よく、パッシブハウスにすると高いからやめておいた方が良い。という話をする人もいます。
確かに建築費は通常の建物に比べると高いです。ではなぜ、ドイツではみんながパッシブハウスにしたがるのでしょうか。
海外にはこんなことわざがあります。
「親が頑丈な家を建てたら、子どもはいい家具を揃え、孫はヨットを買う」
パッシブハウスが高いと言っている人は自分の世代の事しか考えていないのかもしれません。
構造体が断熱材で守られているパッシブハウスの耐久性は、しっかり作れば100年以上使える家になります。自分の子孫のお金まで計算すれば、パッシブハウスを建てて省エネな暮らしをすることによる経済的メリットは建築費の増額分を悠々とカバーすることが出来ます。
残念ながら日本の省エネ計算ソフトの殆どは、ローンを返すまでの間の35年程度でしか生涯コストを計算することが出来ません。住宅が世代を超えて使われる際の経済的メリットを評価する物差しが無い為、「パッシブハウスは高い」という近視眼的な話が出てしまいます。
パッシブハウスにするためのUA値はどの程度?
日本の省エネ基準とは比べ物にならない程、厳しいのがパッシブハウスですが、UA値に関する明確な基準は有りません。その代わり、年間暖房負荷15kWh/㎡というエネルギー総量の制限をクリアする必要があります。
その地域の年間の気温や、年間の日射量によって、必要になるUA値は変わってきますが、最低でも0.3W/㎡Kは下回っておきたいところ。条件の厳しい地域であれば、もっと数値を下げなければ、15kWh/㎡・年はクリアできません。
ちなみに岐阜県岐阜市に建っている芥見南山パッシブハウスのUA値は0.19W/㎡Kとなっています。
パッシブハウスの坪単価は?高いって本当?
この質問には残念ながら「はい」と答えるしかないかと思います。日本で普通に建っている建売住宅に比べて3倍以上の量の断熱材を使う事になりますので、それが同じはずは有りません。
目安としては、積水ハウスや三井ホーム、スウェーデンハウスの最高クラスの商品と同じくらいの価格はしてしまうと思っても良いかと思います。
ただし、価格が同じであれば、それらの商品の2倍以上の断熱性を持つ建物は割安だと思いませんか?
パッシブハウスにするための間取りはあるの?
間取りに制約はありません。しかし、南面で日射を沢山受ける場所に効果的に窓を配置するなどの工夫は必要です。パッシブハウスはその認定を取ることが目的なのではなく、如何にエネルギー使用量を少なくするかが重要です。
南側に水回りが集中するなど、窓の配置がもったいない様な事になってしまう間取りは避けたほうが賢明です。
パッシブハウスにするための断熱材はどれ?
パッシブハウスにするために使うべき断熱材、使ってはいけない断熱材というものは有りません。グラスウールでもロックウールでも、ウレタンでも、地域の特性や、あなたの生活に合ったものを使っていただければよいかと思います。
ただし、ドイツの家と日本の家の違いに、家の熱容量というものがあります。ドイツは建材として石を沢山使う為、家が蓄えられる熱量というものが非常に大きいですが、日本は木材が中心な為、ドイツの家程熱を蓄えにくくなっています。日本の家に足りない熱容量を補う為に、熱容量の大きな断熱材を使うというのも、家の快適性を上げるポイントの一つになりますね。
パッシブハウスの換気は何を使えばいいの?
パッシブハウスに第一種熱交換換気はセットだと考えてください。熱交換の出来ない換気扇を使っては、パッシブハウスにはなりません。
また、EUのエネルギー消費性能の基準をクリアした商品を使わないと、カタログ数値から少し割り引いて計算をしなくてはならないというルールも有りますので、出来ればヨーロッパの換気商品を使うのが無難です。
最後に、日本でも流行り始めている「ダクトレス熱交換換気」スティーベルやヴェントサン、せせらぎなどの商品はパッシブハウスの認定は取れませんので、気を付けてください。
パッシブハウスにエアコンは使ってもいいの?
勿論、パッシブハウスにエアコンの暖房を用いても構いません。日本のエアコンは世界でも非常に優秀な性能を誇りますので、適切な能力選定をすれば、パッシブハウスにも問題なく使っていただけます。
ただ、最初にもお伝えした通り、パッシブハウスは基準クリアを目指す物ではなく、持続可能な社会をつくるという思想だと考えております。
その観点から言えば、出来ればバイオマスを使った熱源を採用してもらえると、よりパッシブハウスの本旨に近い家になると言えると思います。
バイオマスと言えば、薪ストーブやペレットストーブ、薪ボイラーの給湯器などですね。
また、太陽熱温水器などの自然エネルギーを有効利用できる設備を導入することも、大変良い取り組みだと思います。
パッシブハウスを建てられる工務店はどこ?
パッシブハウスを依頼する先は意外と限られています。
パッシブハウスジャパンのホームページには、パッシブハウスジャパンに加盟している工務店や設計事務所の一覧があり、そこにはパッシブハウスを建てた実績があるかどうかも載っています。
ただし、部活動でもなんでもそうですが、どんな集まりにも、一所懸命に取り組むメンバーもいれば、幽霊部員の様なメンバーもいます。
HPの名簿を盲信するのではなく、自分の目で直接確認することも忘れないで下さい。
パッシブハウスと一条工務店の違いは?
日本では、共に高断熱住宅を建てる事で有名な団体とハウスメーカーなので、両方を比較する人も多いかと思います。
簡単に言えば、目指すゴールが少し違うというのが、両者の違いになります。パッシブハウスが目指す物は、人類がこの先も持続して生活出来る事。そのために、15kWh/㎡年という具体的なエネルギー使用量の目標がゴールとなります。
対して一条工務店さんが目指す物は、Q値やUA値などの、もっと前段の燃費基準になります。
車で例えるのであれば、パッシブハウスが目指すのは、年間のガソリン代が2万円以下で納まる車を目指すというのがゴールです。
一条工務店が目指すのは燃費が30㎞/Lの車を目指すというもの。
いくらカタログ燃費性能の良い車を作っても、運転の仕方が悪かったり、走るのが平たんな地域なのか山あいの地域なのかによって、実際に掛かるガソリン代は違います。住まう人や建てる地域の特性もちゃんと考慮して、実質使用するエネルギーが少なくなるような家を設計できなくてはパッシブハウスにはならないという事です。
使っている材料などはそんなに変わらないかもしれません。しかし、設計する人のスキルが全然違うから、実際に住んだ後の光熱費が変わってくるというのが、両者の違いになるのではないでしょうか。
愛知・岐阜でパッシブハウスを建てたい。
パッシブハウスを建てるのであれば、まずはパッシブハウスジャパンのホームページから会員一覧を確認してください。
工務店会員さんと設計事務所会員さんに分かれておりますが、工務店会員さんは大体本拠地から半径20㎞程度が施工可能エリアになっていることが多いです。もし、建てる予定の地域に工務店会員さんがいるのであれば、まずはそちらを訪ねてみましょう。
もし、工務店会員さんが近くに居無さそうであれば、設計事務所会員さんを訪ねてみましょう。設計事務所は、一般的に工務店より活動範囲が広く、中には日本中どこでも仕事を請けるとおっしゃる方もいます。
パッシブハウスジャパンの問い合わせフォームから、パッシブハウスを建てたいと問い合わせる方法もありますが、実は東海地区の場合受け答えをしているのは私です。
基本的には上記の通りのお答えになってしまいますのであしからずご了承くださいませ。
パッシブハウスを見るならオープンデーがお勧め
パッシブハウスを見てみたいけどいきなり見に行くのはちょっと敷居が高いな。
そう感じられましたら、パッシブハウスオープンデーに参加するのがお勧めです。毎年11月に、全世界同時にパッシブハウスの見学会が開催されますので、ちょっとしたお祭りイベントです。この機会に、地域のパッシブハウスを全部回ってみましたと言う人も居らっしゃいます。
秋になるとパッシブハウスジャパンのHPに案内が載りますので、是非この機会を有効に活用してくださいませ。
さて、今回はパッシブハウスのお話しでしたが、
家づくりにはまだまだたくさんの落とし穴があります。
家づくり失敗したなぁと思う人を一人でも減らせたらと思い、
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