専務コラム
専務コラム
この4月から少し忙しい時間を過ごさせていただいております。
母校の独立行政法人 国立高等専門学校機構 岐阜工業高等専門学校(通称:岐阜高専)にて、非常勤講師を務めております。
教える学科は3年生、4年生、5年生それぞれの学生さんに、建築環境工学、建築設備について教えるというものです。
建築基準法や施行令が最低限やらなくてはならないことを規制しておりますが、その最低限やらなくてはならないことが、
なぜその数字が決まったのか、どういう根拠があって法律になっているのかという事を理解して仕事をしている人はとても少ないです。
例えば地震に強い家。うちの家は自信に強いですとほぼすべての建築会社が言います。しかし、その根拠を尋ねると、
○○工法を採用しているから、○○耐震システムを導入しているからという答えが返ってくることが殆どです。
その設計者や営業担当者は部材の応力計算など一度もしたことのない人が99%を占めています。
でも、耐震基準に関しては、それで良い面もあります。なぜならば、建築基準法が最低限のものを設定してくれているからです。
細かいことはよくわからなくても、法律さえ守っていれば、一定以上の耐震強度のある建物が出来ます。
耐震等級3(阪神大震災の1.5倍の揺れにも耐えられる構造)を取るのにも、ほぼ完成されたやり方と計算式があります。
ひるがえって建築環境という点を見てみますと、実は、環境工学の部分で法律で決められている項目はそれほど多くありません。
家の中の空気環境、温度環境、音環境を扱うのが環境工学、当たり前に水が出る、お湯が出る、電気が付く、ガスが付く、ネットがつながる。そういったことを扱うのが建築設備です。
環境工学の中ではシックハウス対策法の中で、家の中の換気は2時間に1回空気が入れ替わるようにしましょうというものや窓の大きさ等が決まっているだけです。
後は、いくらうるさくても、音が反響しても、暑くても、寒くても、光熱費がどれだけ跳ね上がろうとも、建てる人(お客様)と設計する人の自由にしていいのです。
日本以外の先進国では、断熱や結露に関する事は法律で定めがあるのが当たり前です。
家が寒いのは法律違反でもなんでもありません。結露が起こったりカビが生えたりするのも全く法律に触れておりません。結露で木材が腐るのも建築会社は何も悪くありません。
岐阜にある新しい図書館「メディアコスモス」が漏水を起こしています。雨漏りと言われておりましたが、最近では結露だという話も出ております。
設計者、施工者としては、恐らく「結露」と結論づけたいと思っていると想像します。なぜならば、雨漏りなら保障問題、結露なら「仕方ない」になるからです。
日本の法律や消費者は雨漏りには厳しいですが、結露には寛大です。
1年前の熊本地震でも、沢山の家が倒れました。単純に耐震性の無かった建物もありますが、結露で木材が不朽し、当初の構造耐力が維持できなかった建物もあります。
温熱設計を間違えると、そういう事になってしまうのですが、それも法律違反ではなく、設計者、施工者は責任を問われません。
冒頭の話に戻りますが、今、岐阜高専で教壇に立たせていただいている目的の一つに、「正しい建築環境知識を身に付けた技術者がちゃんと世の中に出ていく事」を掲げております。
彼らはとても優秀です。住宅業界を活躍のフィールドにしようと考えている人はごく僅かです。殆どの学生たちは、超大手の会社や地方自治体などに就職していきます。
彼らが将来、独立して住宅を扱うような事になった場合、私の講義を思い出して、正しい知識に基づいた家を建ててくれたらなと思います。
暖かい、涼しいというのは物理学の世界です。保温性と発生熱量のバランスが取れれば暖かいです。それをいかにコストを抑えて実現するかというだけの話です。
まるで魔法のような事を言って「うちの家は暖かい」と言う建築会社が多すぎます。そういう家に住んで「思ったよりも暖かくない。それどころか結露で腐った。高気密高断熱住宅は信用できない。」
そんな感想が世の中に多くみられるのがとても悲しいです。全ては作り手の知識不足が引き起こしております。
岐阜高専の非常勤講師の傍ら、たまに工務店フォーラム様という工務店の為のWEB講座を運営しておられる会社様にて講師を担当しております。
全国の建築会社の皆さんに、正しい認識を広めたいという思いを持ってやっております。
実は今週も2つの講座の収録をさせていただきました。
建築環境工学や建築設備は、お客様の生活の質を向上させ、生活コストを下げることのできる学問です。
うちの家は暖かいですよ。という建築会社がいましたら、是非、じゃあ家全体を20℃まで絶えず暖房して、毎年1月の暖房費が5000円で収まる家って建てられますか?
と聞いてあげてください。「分からない。できません。たぶんやれると思う。」などのあいまいな答えが返ってきましたら、その会社、その担当者はよく分かっていない99%のうちの一人です。
私はそれに「できます」と答えられる人を育てる活動をしています。